地面師

以前から気になっていた本を読みました。

『地面師』森功 著

 

 

地面師……

最近では、積水ハウスが50億円超を騙し取られた事件をご記憶の方も多いと思います。

この本には積水ハウスの事件のほか、過去の地面師による事件の経緯が詳細に書かれています。

 

かねてより、

なぜ地面師は他人の土地を勝手に売買できるのか?

なぜ大手企業が簡単に騙されるのか?

との疑問がありましたので、この本の内容はとても興味深く、一気に読みました。

読んだあとに残るのは、得体の知れない気味の悪さでした。

頭の良さを悪事に利用し、大金を騙し取ることに罪悪感がない人間の存在

に対する怖さとでも言いましょうか。

 

 

地面師のやり方は、ひとことで言うと、

【エキスパート集団によるチームプレー】です。

聞こえはいいですが犯罪です。

 

 

犯行を計画する主犯格、

売り主になりすます役を見つけ演技指導を行う者、

パスポートや印鑑登録証明書などを偽造する者、

振込口座を用意する者、

法的なサポートや手続きを担う弁護士や司法書士、など

それぞれが役割分担し数年がかりで犯行に及びます。

 

詳細は本書に譲りますが、ここまでされたら騙されるのも無理ないなという気になります。

 

 

それでも、それぞれの事件で被害に気づくことができたであろうポイントはいくつかありました。

しかし、好物件の取引を急ぐあまりに、普段なら気に留めるであろう小さな違和感を

見過ごしてしまうのです。

積水ハウスには、本物の所有者側から内容証明による警告が複数回届いていたにもかかわらず、

これを取引を邪魔する第三者からの怪文書として内部処理し、さらに取引を加速していきます。

 

巧妙に仕組まれた事件において、地面師達に騙される人ばかりかというとそうでもなく、

積水ハウスの前に取引を持ち掛けられたデベロッパーの中には、周辺住民への聞き取りから

なりすまし役が地主とは別人だと気づき取引を中止したところや、

なりすまし役との他愛ない会話から偽物と見破ったところもあります。

被害を未然に防ぐことも不可能ではないのです。

 

本書に悪徳司法書士は登場するのですが、なりすましや書類の不備に気づき地面師事件の

ストッパー的役割を果たす司法書士がひとりも出てこない点はさみしいかぎりです・・・・・・

 

 

私たちが日々関わる取引の大半は安全だと思いますが、こんな事件が実際起きていると知ってしまうと、

多少なりとも司法書士のあり方、役割について考えてしまいます。

 

司法書士の基本は、「人、物、意思の確認」と教わってきましたが、

偽造された身分証で印鑑登録されてしまったら、発行される印鑑証明書自体は本物。

この印鑑証明書を元に公証役場で本人確認書類が作成されている。

ここまで書類をそろえられてしまったら、どのように確認すればなりすましに気づけるか?

仮に、いつもと違うな、何かおかしいなと感じたとき、果たしてそれを言い出せるか?

多くの人が関わっている取引を止めることになりますから、相当確信を持てるときに限られるでしょう。

 

 

司法書士の立場から不正を見抜くには正直限界がありそうですが、

「常に落ち着いて細心の注意を払うことを怠らない」しかないですかね。

先のなりすましを見抜いたデベロッパーのように。

 

本書に興味を持たれた方は、ぜひお読みになることをおすすめします。

 

 

 

 

積水ハウス事件の舞台となった土地のネット謄本(2020/7/6)です。

参考までに。

※個人のお名前などは一部消してあります

 

 

 

 

2番で所有者から売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記が入っています。

このIKUTA HOLDINGS株式会社も地面師グループです。

このように登場人物を増やすことで事件を解明しにくくするとともに、

地面師グループが代金を受け取れるようにしています。

 

連件で、積水ハウスへの2番所有権移転請求権の移転請求権仮登記が入っていますが、

この本登記が受理されず、積水ハウスは地面師被害に気づきました。

所有者側から不正登記申出がされていたのか、法務局が添付書類に疑問を持ったのかは

本書からはわかりませんでしたが、法務局が最後の砦となり、本登記は免れた形です。

 

そして、所有者が亡くなり相続登記がなされた後、仮登記は2件とも抹消されています。

 

現在は、新しい所有者のもと、建物は取り壊され更地になっています。

 

この土地は不動産業界垂涎の好立地とのことです。

 

数年後には、マンションが建つのでしょうか。