株主視点の株式分割、株式併合

 

司法書士は、株式会社の設立や役員変更など、会社の登記手続きを主な業務のひとつとしています。

しかし、登記は会社側から依頼されるため、日々の業務においては株主側の視点で各種手続きについて考えることはあまりありません。

そこで今回は、自分が株主となっている会社に株式分割や株式併合が生じた場合、実際どのように手続きが進んでいくのか見てみます。

自由に売買できる株式ということで上場会社の株式の場合を想定しています。

 

 

  • 株式分割

株式分割とは、既に発行している株式を細分化する手続きです。

 

例として、割当比率1:5の場合で説明します。

株式分割の効力発生により、株主に対して割当比率に応じて無償で株式が割り当てられます。

100株保有していた株主には400株が割り当てられ、分割後は500株保有していることになります。

 

どのような場合に株式分割が行われるかというと、1株の価値が高くなりすぎているようなときです。

 

株式分割の決議は、取締役会設置会社では取締役会決議で決定されます。

発行済株式総数が増加するので、発行可能株式総数の枠を広げる必要が乗じる場合が多いです。

発行可能株式総数の変更は、本来ならば定款記載事項ですので、株主総会特別決議が必要となります。しかし、種類株式を発行していない会社であれば、株式分割の割合を乗じた数の範囲で発行可能株式総数を増加させる場合には、会社法184条2項により、取締役会決議によって定款変更ができます。

つまり、株式分割自体の決議もそれに付随する定款変更も取締役会決議で可能なのです。

どの時点の株主が株式分割の効力を受けるのかを決めた「基準日」の公告が会社からされているはずですが、株主がその公告を目にする可能性は低いと思われます。

そのため、株式分割について株主が事前に知る可能性は(経済ニュース等を除き)低いと言ってよいでしょう。

株式分割により保有株式数は増加しますが、無償ですし、保有している株式全体としての価値に変化はないので株主に不利益はありません。

 

では、株主はいつ株式分割のことを知るのでしょうか?

ちょうど最近、我が家に届いた通知があります。

「株式分割手続き完了のお知らせ」と題された郵便物で、差出人は、株主名簿管理人である信託銀行からでした。

今回は、割り当て比率が1:3なので、保有数が100株から300株に増えました。

しかし、先にも書いたように配当が3倍期待できるのではなく、株式の価値が3分の1に薄まっただけなので全体の価値に変化はありません。

 

 

次に株式併合について見ていきます。

 

  • 株式併合

株式併合とは、数個の株式を合わせて1つの株式にする手続きです。

例として、併合比率5分の1での場合で説明します。

株式併合の効力発生により、それまで500株保有していたものが100株に減少します。

 

発行済株式の総数を減少させることで、1株あたりの価値を高めるために行います。

また、株主への招集通知発送などにかかる管理コスト削減、少数株主を追い出すスクイーズアウトという側面もあります。

 

株式併合は、株主総会の特別決議が必要です。

株式分割と違い、株主による決議が必要ですので株主総会の招集通知がきます。

ちゃんと読むと書類の中に記載があるはずです。

株主に対し、効力発生日の20日前までに併合の内容について通知または公告もされます。

通常の取引所の株取引では、売買の最低単価である単元株式数が決まっています(1口100株など)が、株式併合により単元未満株式が発生する場合は、この取り扱いについて会社から説明があります。単元未満株になると通常は売買ができなくなりますが、単元未満株を取り扱っている証券会社もあります。株主は、買い取りや、単元株になるよう買い増しの手続きを請求できます。

単元未満株には議決権はありませんが、配当を受ける権利はありますので、高配当株式ならばそのまま保有し配当を受け取るという選択肢もあります。

 

株式併合についてもお知らせがきます。

「株主併合による新株式の割当に関するご通知」と題され、手続きが完了した旨、割当の結果1株に満たない端株が生じた場合は、会社が買い取り代金を支払う旨、割当比率や割り当て株式数の記載があります。

 

株式併合は株式分割に比べて株主への影響が大きいので、株主総会決議を通じて株主が関与する場面がありますので、郵便物等をちゃんと見ていれば知らないうちに株式併合の効力が生じていたということはありません。

 

以上のように、会社や証券会社から株主に対しては、通知やお知らせなど何らかのアナウンスが都度あります。

しかし、株式分割や株式併合は、株主にとっては新たな出資や株式の売却が直接的には絡んでこないためか、会社が会社法の規定どおりに各種手続きを取っていても、案外株主は知らない、または後から気づくことが多いというのが現状のように感じます。