『82年生まれ、キム・ジヨン』。「何年か前に書店で見かけたな」程度の認識で、内容に関しては予備知識ゼロで読み始めたこの本。
読後しばらく経ちますが、小さなトゲのようなものが私の心に刺さって抜けません。
若い人がよく使う「刺さる」のようなインパクトがあるものではなく、じわじわと、でも確実にその影響があり、ふとした時に思い出して考え込んでしまうという感じです。
この本は2016年に韓国で刊行され、100万部を売り上げたベストセラー小説です。
題名のとおり、1982年生まれの主人公、キム・ジヨン氏(女性)の子供時代から学生、社会人を経て、結婚、出産、子育てをする過程が描かれています。
キム・ジヨン氏の祖母・母・姉・など世代は違えど韓国社会における女性の置かれている状況がよくわかります。
キム・ジヨン氏のおばあさんの話は、私が自分の祖母から聞いた話しとも似通っていて心が痛みます。この時代は女性に勉学は不要と考えられており、勉強したくても家族(特に兄弟の進学費用)を支えるために幼くして働くことを強いられた世代でした。私の祖母も、長女であったため小学校卒業とともに働きに出されたそうです。そうまでした兄弟の一人は、戦争に取られ、結局亡くなってしまいました。
それに比べるとキム・ジヨン氏のお母さんはとてもパワフルで、自分で美容室を営んだりお粥の店を出したりしながらお金を貯めて、マンションを買うまでに至ります。こちらは日本のお母さん世代とは少しちがうかもしれません。
どの世代の女性も苦労した人ほど強く、優しいと感じます。
この辺りまでは韓国と日本を比較しながら、昔の女性の大変さを改めて感じながら読み進めていました。
しかし、キム・ジヨン氏が結婚したあたりから次第に読むスピードが落ち、何度も中断し、結局、読み終わるまで1週間以上かかってしまいました。
その理由は、本の中のキム・ジヨン氏を通じて過去の私自身の記憶があれこれよみがえってきて苦しくなったためです。
ひとつひとつは些細なことです。
例えば、私の両親と私たち夫婦が同席するとき、私と私の両親は夫を最優先します。
夫 > 父母・私 というように。
しかし、夫の両親と私たち夫婦が同席するときは、夫は自分の両親、特に父親を最優先します。
したがって、義父 > 義母 > 夫 > 私 という関係性が生じます。
しかし、この関係性、厄介なことに誰も悪気がないのです。
ただ、当然のようにヨメは最下位なのです。
ヨメは、ふとした折にこのヒエラルキーにさらされて小さなモヤモヤが積もるのです。
妻は夫にアウェー感を感じさせまいとあれこれ気づかうのに、逆の立場になると夫は一切フォローなしかと。
義父母はともかく、夫には妻の味方になってほしいですよね。
また、キム・ジヨン氏もそうでしたが、「早く子供が見たい」という趣旨の発言をするのも夫側の親族だけなのです。
本当に、なぜでしょう。
ヨメには何を言ってもいいのでしょうか。
あんなこともあった、こんなこともあった。
忘れていたはずのことがいろいろ思い出されて苦しくなります。
あれは女性差別だったのか、あのとき何か反論しても良かったのか・・・・・
その場では言語化できないほどの小さな違和感なのですが、着実に私の中に積み重ねられ、今も消えていないことを思い知らされました。
静かにですが心がざわついています。
この本、読まない方が良かったのでしょうか。
キム・ジヨン氏はどこにでもいそうな普通の女性として描かれています。
同じような経験をした女性が多く、自分と重ね合わせて読まれることでベストセラーになったのでしょう。
この本は、男性や未婚女性が読まれてもあまりピンとこないでしょう。
良い悪いではなく、当事者にならないと感じ取れない心の機微があるのだと思います。
女性の人生をチャート化すると複雑すぎて迷路のようになります。
未婚 or 既婚、
働いている or いない、
子供はいる or いない、
両親は近居 or 近居ではない・・・・・
子供がいて働いている女性でも、夫の協力があるか否かなど置かれた環境はひとりひとり違います。
この事務所も女性が3人いますが、それぞれ未婚・既婚子供なし・既婚子供ありと三者三様のため、勤務時間に差があります。ワークライフバランスに理解のある職場で感謝しています。
それに比べて男性の人生チャートは、
未婚 or 既婚、
子供はいる or いない、くらいではないでしょうか。
女性は、何を選択するかによって都度人生の岐路に立たされるのです。
この本はキム・ジヨン氏の子供が未就学児のところで終わっています。
キム・ジヨン氏は今後の人生で、ママ友やPTA、お受験問題に直面するかもしれません。
私にも両親の介護や相続問題が待っているはずです。
これからも女性はみな人生のチャートを都度選んで進んでいくのでしょう。