相続法改正③

第3 遺言制度に関する見直し

従来の自筆証書遺言には厳格な規定が定められていたため、方式違反として無効になる事例も多く見受けられました。そうなると、せっかく遺言書を作成しても、被相続人の遺志が尊重されない事態が生じてしまいます。

それを避けるため、遺言書制度を使いやすいよう簡便にわかりやすくする必要がありました。

また、遺言執行者の権限についても明らかにされました。

・自筆証書遺言の方式緩和

現行民法: 遺言書の全文日付及び氏名を自書して押印

改正民法: 財産目録は自署不要

改正民法968条2項:登記事項証明書や預貯金通帳の写しなどを添付する方法でも良い
(自署によらない部分は目録のページごとに署名押印必要)

・自筆証書遺言の保管制度の創設

「法務局における遺言書の保管等に関する法律」により法務局に自筆証書遺言を保管してもらう制度が創設され、家庭裁判所による遺言の検認不要に。

法務大臣の指定する法務局が遺言証書保管所となり、遺言書保管官が事務を取り扱う。その審査権は外形的なもの。 遺言書の保管申請は自ら出頭して行い本人確認を行う。未成年者も可。

遺言者本人はいつでも原本の閲覧を請求することができる。

遺言者が死亡している場合に限り遺言証書情報証明書の交付請求、 関係遺言書の閲覧請求ができる。この場合、 遺言書保管官は速やかに当該関係遺言書を保管している旨を遺言者の相続人並びに当該関係遺言者書にかかる受遺者・遺言執行者に通知することを要する。

・遺贈の担保責任(遺贈の引渡義務等)

遺言者が相続財産に属する物または権利(特定物不特定物を問わず)を遺贈の目的とした場合には、遺贈義務者は、原則として相続が開始した時の状態でその物もしくは権利を引渡し、又は移転する義務を負う。ただし、遺言者がこれと異なる意思表示をしていた場合には、遺贈義務者はその遺志に従った履行をすべき義務を負う。

・遺言執行者の権限の明確化

改正民法1012条1項:遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権限を有する。

→ 遺言執行者の法的地位は「相続人の代理人」ですが、「遺言の内容を実現するため」に必要な行為をするのであって、必ずしも相続人にとって利益となる行為ばかり

をするわけではないことが明文化されました。

 

・改正民法 1012条2項:遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。

・改正民法1014条第2項:遺産分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共有相続人の一人または数人承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。

→ 特定財産承継遺言による相続であっても、遺言執行者が単独で「年月日相続」による登記申請が可能になりました(現行民法では財産を承継した相続人からのみ申請可能)。

・改正民法1014条3項:前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は同項に規定する行為のほか、その預金または直近の払い戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解除の申し込みをすることができる。ただし解約の申し入れについてはその預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。

→ 遺言執行者に預貯金の払い戻し・解約の権限も新たに認められました。

 ・改正民法1007条2項:遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、その内容を相続人に通知しなければならない。

→ 遺言執行者の権限が強化されたこともあり、遺言執行者に相続人の対する通知義務が課せられました。