6月19日、政府は「契約書の押印は必ずしも必要ではない」との見解を示しました。
コロナウィルスの影響でテレワーク推進が推奨されていますが、押印のためだけに出社するといったことを避ける狙いがあるようです。
見解はQ&A方式で示されており、
契約書に押印をしなくても、法律違反にならないか?
との問いに、
私法上、契約は当事者の意思の合致により成立するものであり、書面の作成及び書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない。特段の定めがある場合を除き、契約に当たり、押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない。
と回答しています。
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簡単に言うと、
契約書にハンコが押してなくても契約に影響ないですよ
ということです。
それでは、なぜ押印が必要以上に求められてきたかといいますと、それは後の争いを避ける=訴訟上のリスクを軽減するためです。
民事訴訟法上、契約書等の私文書に本人の署名又は押印があると、本人により作成されたものと推定されます。それを「真正に成立した」といいます。真正に成立した文書は証拠として使うことができます。
そのため、その文書が裁判上争いとなった場合でも、本人による押印があれば、特に疑わしい事情がない限り、証拠としての力を持ち、文書の成立の真正について証明する負担が軽減されることになります。
↓↓
簡単に言うと、
後々裁判になった場合でも、ハンコがあると証拠として認められやすいですよ
ということです。
しかし、こんなことを言われると、契約書に押印しないと不安になりませんか。
これに対しては、
裁判で文書の成立の真正は、押印の有無のみで判断されるものではなく、文書成立の経緯を裏付ける資料や証拠全般に照らし、裁判所の自由心証により判断される。
本人による押印がされたと認められ文書の成立の真正が推定されても、相手方による反証は可能であり、その効果は限定的である。
このように、本人による押印があったとしても万全というわけではない。
とあります。つまり、
ハンコがあっても絶対大丈夫というわけではない
と書いてあります。
押印の有無は契約の内容に影響を与えないし、押印があるからといって裁判においても万全とはいえないとわかりました。
それならば、押印は省いた方が負担は減りますね。
Q&Aでは、押印をやめた場合、文書が本人により作成されたと証明する手段として、次のようなものが挙げられています。
・取引先とのメールのやり取りの履歴、
・運転免許証などの本人確認情報の記録・保存、
メールなんていくらでも改ざんできてしまいそうですが、複数者宛にメールを送信(担当者だけでなく部署の上司などを宛先に含める)したり、PDFにパスワードを設定したりする方法で立証が容易になり得るとしています。
そして、
テレワーク推進の観点からは、必ずしも本人による押印を得ることにこだわらず、不要な押印を省略したり、「重要な文書だからハンコが必要」と考える場合であっても押印以外の手段で代替したりすることが有意義であると考えられる。
とまとめてあります。
確かに、日々扱う書類の中に当事者の押印があると、それだけで、反射的に「重要な書類!」と判断し、おのずとその取扱いに慎重になってしまうのも事実です。
そういった意味では、私もハンコ文化にどっぷり浸かってしまっています。
司法書士の業務では、「実印で押印し印鑑証明書を添付する」という形式が法律で要求されており、今すぐに押印のない書類作成への移行は難しいですが、政府からこのような見解が示されたことに一定の意義はあると感じます。