日頃から事務所で話題になることのひとつに、司法書士はどこまで確認してどこまで責任を負うのか?ということがあります。
司法書士の責任の範囲について、日司連の研修が大変参考になりましたので共有したいと思います。
司法書士が登記申請手続事務をすることは民法上の委任契約(民法643条)と考えられています。
そのため、職務に当たり「善良な管理者の注意義務」、いわゆる善管注意義務を負います。
善管注意義務違反があれば、債務不履行責任を負います。
この責任は、行為責任であり、結果責任ではありません。
例えば、売買による所有権移転登記を依頼された場合、善管注意義務を尽くしていれば、登記義務者が成りすましなどの理由により登記申請が却下され、依頼された結果を果たすことができなくても債務不履行責任は負わないということです。
※参考までに
鎌田薫先生の考える注意義務の水準
「法令および実務に通じた標準的な司法書士に要求される注意義務の程度」
不動産登記業務において問題になる義務には、依頼に応じる義務、事前閲覧義務、登記手続きの履行義務など様々なものがありますが、日々の業務を行う上で関心があるのは、「書類成立の真否に関する調査確認注意義務」ではないでしょうか。
以前ブログでも取り上げた地面師事件などにおいてもこの義務が関係してくるからです。
明確な条文はないので、判例から裁判所の考え方を見ていきます。
【東京地裁平成27年11月10日判決】
事案:
土地の売買において、売主が成りすましであり、持参した印鑑証明書が偽造であったため登記申請が却下された。そのため、買主が司法書士に対し売買代金相当額の損害を被ったとして提訴した事案。
判事内容:
司法書士は書類相互の整合性を点検し、その目的に適った登記の実現に向けて手続き的な誤謬が存しないかどうかを調査確認する義務を負うものである。しかし、依頼者の用意した書類が偽造、変造されたものであるか否かの成立に関する真否については原則として調査義務を負わないものと解すべきものである。
理由:
・依頼者の登記申請以来の本旨は登記の速やかな実現である。
・司法書士は物権変動に係る法律関係の当事者ではなく、特段の事情のない限り書類の成立の真否を知るべき立場にはない。当事者の取引は内部事情に介入することはその職分を越えたものであって、書類の真否といった事柄は、本来的に、依頼者において調査確認すべきである。
例外:
①依頼者から特別に真否の確認を委託された場合
②当該書類が偽造又は変造されたものであることが一見して明白である場合
③依頼の経緯や業務を遂行する過程で知り得た情報と司法書士が有すべき専門的知見に照らして、書類の真否を疑うべき相当な理由が存する場合
原則として書類成立の真否に関する調査確認注意義務は負いませんが、以上の3つに当てはまる場合は、例外として書類成立の真否に関する調査確認注意義務が生じます。
当該書類の成立について調査確認して依頼者に報告したり、依頼者に対して注意を促すなどの適宜の措置を取る義務があり、このような義務に違反したと評価されるときは、依頼者に対し、委任契約上の善管注意義務違反として債務不履行責任を負うことになります。
次に、連件申請で後件を担当する場合、前件の書類が偽造であった場合、どこまで責任を負うのか見ていきます。
【東京高裁令和元年5月30日控訴審判決】
事案:
数次に渡り売買があり、1件目の権利証が偽造であったため、最終売買の買主が2件目以降を担当した司法書士に対し、前件の書類の調査を怠ったとして損害賠償請求した事案
判事内容:
連件申請につき前件と後件の司法書士が異なる場合、後件の司法書士は、原則、前件の登記が受理される程度に揃っているかといった形式的な調査確認をする義務を負うにとどまる。
書類の真否については、前件の司法書士の態度等から、同人を信頼したのでは前件の登記自体が完了しない結果、後件の登記も完了しないとことが具体的に予見できるような事情がない限り、調査確認義務を負わない。
理由:
連件申請がされる場合、前件の登記手続き書類の真否については、前件の司法書士が一定の場合に負っており(その1参照)、後件の司法書士としてはこれを信頼するのが通常。
後件の司法書士が、重ねて、又は、前件の司法書士よりも広範に、書類の真否の調査確認義務を負うと解するのは相当ではないため。
関西の決済業務の慣例として、ひとつの取引で売主と買主で司法書士が別、抵当権の設定だけ別など司法書士が何人も登場するケースが多々あります。
そのため、連件申請であってもすべての書類を直接確認できるわけではなく、それぞれの司法書士に対する信頼で成り立っています。
担当する部分につき漏れや見落としがないかチェックすることはもちろんのこと、全体にも気を配り、常に確認を怠らないようにしたいと思いました。