「死後離婚」という言葉を聞いたことはありますか?
最近読んだ本に出てきた言葉ですが、民法を勉強したことがある方にとっては、とても違和感のある言葉だと思います。
なぜなら、婚姻は当事者の一方の死亡により当然に解消するからです。
夫婦の一方が亡くなったらその時点で、離婚と同様に婚姻は解消されます。
だからこそ、残された方は再婚だってできるのです。
そうでなかったら重婚になってしまいます。
それにもかかわらず、配偶者の死後、さらに離婚をするとはどういうことなのでしょうか?
調べてみますと、民法に規定のある「姻族(いんぞく)関係終了届」のことを世間一般でわかりやすく、「死後離婚」と呼んでいるらしいことがわかりました。
確かに、姻族関係終了届と言われてもピンとこないけれど、死後離婚と言われると、「死んだ後に離婚する手続きのことだろう」と何となくイメージはつきやすいと思われます。
しかし、法律用語ではない「死後離婚」なる言葉が、意味内容を誤解されたまま浸透・定着していくのは落ち着かない気分です。
そこで、姻族関係終了届について書いていきたいと思います。
姻族関係終了届とは
簡単に言うと、死亡した配偶者の親族との関わりを断つための届出のことです。
死亡した配偶者と離婚する制度ではありません。
この届出を出すには相手方の同意は不要ですし、離婚のように旧姓に戻ることもありません。
【姻族とは】
自己の配偶者の血族または自己の血族の配偶者をいいます。
自分から見て「義理の〇〇」と呼ばれる関係の人たちだと考えてください。
※血族:血がつながっている人
親等の数え方の説明は割愛しますが、わかりやすいところで3親等の姻族を挙げてみます。
1親等の姻族:配偶者の親(義父母)
2親等の姻族:配偶者の兄弟(義理の兄弟)
3親等の姻族:配偶者の兄弟の子供(義理の兄弟の子供)
配偶者の死亡によって当然にはこの方たちとの関係は切れません。
ここが通常の離婚と違う点です。離婚すれば、姻族との関係は当然に終了します。
姻族関係終了の届出を出すことでこの姻族との関係が切れるのです。
【この届出の意味するところ】
法的な効果:姻族の扶養義務を回避できる
扶養義務者については民法に規定があります。
原則、直系血族及び兄弟姉妹に限られる扶養義務が、特別の場合には3親等内の親族に負わされることがあるのです。
親族とは、6親等以内の血族、配偶者及び3親等以内の姻族をいいます。
さきほど例に挙げた3親等以内の姻族は親族となります。
少し、ややこしくなってきましたが・・・
つまり、夫の死亡後、残された妻が、義父母や義理の兄弟の子供の扶養義務まで負わされる可能性があります。
姻族関係終了届出を出すと、この方たちとの関係が切れて親族ではなくなるため、扶養義務が消滅するのです。
姻族関係終了届提出により、姻族に該当せず→ 親族に該当せず→ 扶養義務なしとなるのです。
扶養義務を逃れるため以外にも、様々な理由から姻族関係終了届を出すことがあるようです。
舅、姑、義理の兄弟と付き合いたくない
亡夫と同じお墓に入りたくない
亡夫の生家の墓守をしたくない 等々・・・
配偶者が死亡したからといって姻族の縁を切るなんて、一見自分勝手なようにも思えますが、生前のいろいろな出来事が積み重なっての選択という側面も否めないといえますよね。
どんな間柄であっても、距離を詰めすぎず、相手を尊重することを忘れず、一方的な価値観の押しつけはやめようと自戒の念を込めて思いました。