配偶者居住権の制度趣旨や内容については過去の相続手続き改正ブログで触れましたので、今回は実務の登記手続きについて見ていきます。
配偶者居住権の設定の登記をするためには、
①前提として甲区に被相続人から相続人への所有権移転登記をし、
②そのあと乙区に配偶者居住権の設定登記をします。
配偶者居住権の成立原因は、遺産分割、遺贈、死因贈与(民法1028条)です。
死因贈与を原因とする場合は、相続開始前に仮登記をすることができるというメリットがあります。
配偶者居住権はその性質上、譲渡ができないので移転登記はできません。
具体的な例で見ていきましょう。
【設例】
被相続人 :A
配偶者 :B
子 :C・D
【 遺贈により成立する場合 】
「建物はCに継がせる、だたし、Bに住まわせる」との遺言があります。
この場合留意すべきは、この遺言を
✕ 相続させる旨の遺産分割方法の指定、特定財産承継遺言と解釈してはいけない
〇 Cに対する建物所有権の負担付遺贈
と解釈するという点です。
したがって、なすべき登記は、
甲区 A→Cへの所有権移転
登記の目的 所有権移転
原因 遺贈 ✕相続
原因日付 (遺言効力発生日)
申請人 BCD
登記権利者 C
乙区 Bのための配偶者居住権の設定の登記
登記の目的 配偶者居住権設定
原因 遺贈
原因日付 (遺言効力発生日)
登記義務者 C
登記権利者 B
【 遺産分割協議により成立する場合 】
なすべき登記は、
甲区 A→Cへの所有権移転
登記の目的 所有権移転
原因 相続
原因日付 (相続開始日)
申請人 C
登記権利者 C
乙区 Bのための配偶者居住権の設定の登記
登記の目的 配偶者居住権設定
原因 遺産分割 ✕相続
原因日付 (遺産分割の日) ✕相続開始日
登記義務者 C
登記権利者 B
登記原因を相続としてしまいそうですが、遺産分割とすべき点に注意が必要です。
民法1028条で定める配偶者居住権の成立原因は遺贈と遺産分割とされているからです。
また、配偶者居住権は、被相続人の次の代の建物所有者と配偶者居住権者とのあいだで成立する権利である点も鑑み、原因は遺産分割となります。
【存続期間の考え方】
存続期間は必要的登記事項です。
遺贈による成立
民法上
始期 :遺言が効力を生じたとき
終期 :①配偶者居住権者が死亡したとき
②遺言で定めたとき
存続期間の登記記載例
①配偶者居住権者が死亡するときまで
②年月日から〇年または配偶者居住権者死亡時までのうち、いずれか短い期間
遺産分割による成立
民法上
始期 :遺産分割のとき
終期 :①配偶者居住権者が死亡したとき
②遺産分割で定めたとき
存続期間の登記記載例
①配偶者居住権者が死亡するときまで
②年月日から〇年または配偶者居住権者死亡時までのうち、いずれか短い期間
【移転の登記手続】
先にも書きましたが、譲渡できない権利なので移転登記は観念できません。
【変更・抹消の登記手続き】
存続期間の短縮は可能ですが、伸長はできません。
原則共同申請ですが、配偶者居住権者が死亡した場合は所有権者から単独で抹消申請できます。
※不登法69条:権利が人の死亡又は法人の解散によって消滅する旨が登記されている場合において、当該権利がその死亡又は解散によって消滅したときは、第60条の規定(共同申請)にかかわらず、登記権利者は、単独で当該権利に係る権利に関する登記の抹消を申請することができる。
また、当事者の合意で消滅させる、単独で放棄することは民法上明確に規定されていませんが、可能であると解されています。
合意で消滅させる場合、原因は「合意消滅」と記載します。
こちらも「解除」としてしまいそうですが、「解除」は契約があることが前提です。配偶者居住権は法定権の側面があり設定契約がないので解除という概念にはなじみません。
以上で登記手続きについては終わります。
まだ、実際に配偶者居住権に関する登記を申請したことはありませんが、相続による所有権移転登記や抵当権などの抹消登記と同じような感覚で進めてしますと間違いやすい点が多いので登記原因や原因日付に注意が必要だと感じました。