成年後見人が成年被後見人(本人)の居住用不動産を処分するには、家庭裁判所の許可が必要であると民法に規定されています。
民法第859条の3【成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可】
成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
この規定は、成年被後見人の利益を尊重し、居住環境の精神面に与える重大な影響を考慮して、成年後見人の代理行為に関して特に制限を加えたものです。
成年後見人が家庭裁判所の許可を得ないで本人の居住用不動産を処分した場合、その行為は無効となります。
「居住の用に供する」とは、生活の本拠として現に居住の用に供し、または将来供する予定がある、ということをいいます。
したがって、別荘などのセカンドハウスはこれに該当しません。
居住用不動産に当たるか否かは、本人の住民票がそこに置かれているかどうかなどの形式的な基準だけではなく、本人の生活実態も含めて判断されます。
次のいずれかに該当するものが居住用不動産になります。
①本人の生活の本拠として現に居住している建物とその敷地
②現在居住していないが過去に生活の本拠となっていた建物とその敷地
③現在居住していないが将来生活の本拠として利用する予定の建物とその敷地
現在居住していない不動産であっても、居住用不動産に該当する場合もある点に注意してください。
特に高齢者の場合、施設に入居していたり、病院に入院したりしていて、処分の時点では対象の不動産に居住していないケースもありますが、将来帰ってくる見込みが絶対ないとは言い切れないところもありますので慎重に判断する必要があります。
裁判所の判断基準
居住用不動産の処分が許可されるか否かは、次の要素をもとに総合的に判断されます。
①本人の財産状況に基づく売却の必要性
②本人の生活や看護の状況、本人の意向確認
③売却条件が相当か否か
④売却後の代金の保管(売却代金が本人のために使われるか)
⑤推定相続人など親族の処分に反対していないか
なお、条文にもありますように本人の居住用不動産については、売却だけでなく、賃貸借契約の締結、賃貸借契約の解除、抵当権の設定やこれらに準ずる処分をする場合にも、家庭裁判所の許可が必要です。
本人が施設に入所したので、これまで住んでいた賃貸マンションの契約を解除する場合なども居住用不動産の処分に該当します。賃貸物件については忘れがちなので注意が必要です。
以上、見てきましたのは本人の居住用不動産の処分についてですが、居住用以外の不動産の処分については家庭裁判所の許可は不要です。
先日、弊事務所に成年被後見人を売主とする売買案件の登記依頼がきました。
添付書類として裁判所の許可が必要だと考えましたが、よく資料を読むと今回は少し事情が違っていました。
対象物件は、実態上も本人の居住用不動産とは言えず、形式上も物件の所在地と本人の住民票上の住所地が異なっています。
これは、居住用不動産に当てはまらないのでは・・・
居住用不動産の処分に該当しない=裁判所の許可は不要? との考えに至ります。
しかし、登記申請に当たっては、法務局が何をもって居住用不動産ではないから許可不要と判断するのか、その基準が申請する側にはわかりません。
許可なく登記が通るか不安は残ります。
そこで案件の担当者が法務局に相談票を入れました。
回答は、今回の案件については許可不要とのことでした。
つまり、今回のような場合、登記官は形式的な審査権しか有していないため申請書や添付書類の情報から居住用不動産あると判断できないのであればそのように取り扱うということのようです。
注:あくまでも、今回の案件に限った相談結果なのですべての案件に当てはまるわけではありません。
登記を申請する司法書士の立場からは許可書の添付は不要であると法務局よりお墨付きをもらったわけですが、成年後見人の立場からすると、先にも述べたように、絶対的に将来にわたって居住用不動産ではないと言い切れるかは不安が残ります。
後からやはり許可が必要な案件であったと判断され契約が無効となった場合、その影響の大きさは計り知れません。
司法書士の成年後見実務研修においても、成年後見人は裁判所の監督も元にあるので小さな疑問点なでも独断せず裁判所に相談・確認を怠らないようにとのことでした。
よって、実務的に成年後見人が裁判所の許可なしに本人の不動産を処分する可能性は低いのではないかと考えられます。
今回の案件でも後見人の弁護士先生は裁判所の許可を得ていました。
本人の居住用不動産に該当しなければ裁判所の許可は不要ということは条文の記載通りなのですが、登記や後見人の実務の取り扱いはどうなのかという点で勉強になりました。